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第4話 極上の湯あみ

last update 게시일: 2026-06-10 09:44:11

どういうわけだか、中国の王宮のような場所で暮らすようになった私。

しかも、都合よいことに、皇貴妃という身分にあるのだから、とても嬉しい。

私は貴婦人である。

相手として対象になる人がいるなら、それは皇帝をおいて他にいないだろう。

何かしたければ、お付きの召使か女官を呼べばいい。

実際、女官に服の着替えや、ベッドメイクをしてもらった。

恥ずかしかったが、トイレを頼んだときもあった。

彼らを使うのにも、すっかり慣れた。

二十畳ほどの広い部屋に一人ぽつんといると、ちょっと寂しい。

体に少しむずがゆさを感じ、入浴したくなった。

召使を呼んだ。

「風呂に入りたいのじゃ」

「はい。準備して参ります。しばし、お待ちを」

やがて、先ほどの召使がやって来て、私の前にかしずいた。

この召使はよく目にする。私専用の係なのか。

顔こそ違うが、背恰好が現世の夫に似ていた。

夫似の召使だ、と心中で思った。

「梅皇貴妃。こちらへ」

廊下を通り、天井の高い大きな部屋に入った。

人が十人以上入っても、ぶつからないくらいの広い空間だ。

窓は中国風の装飾飾りで区切られている。赤や緑、金色で塗られている。

梁や天井も、中国風の細かな彫刻と飾りが施されている。

実に贅沢な浴場である。

その部屋には、石組みの浴槽が一つあった。

「ここにお立ちくだされ」

「そうか」

召使は大きな浴場内の中央にある、小型の建物に誘導した。建物内の建物だ。

四本の赤い柱で支えられた、小型の屋根付き建物。

「この小さな建物はなんという?」

「これでございますか。四柱亭よんちゅうていにございます」

「よんちゅう、てい?」

「さようで。四つの柱に支えられた『亭』にございます」

「さようか」

私は四柱亭と呼ばれる屋根付き建物の中心に立った。

部屋の中にさらに屋根付き建物を配することが、いかにも中国っぽい。

召使は大きな桶二つと無地のかめを三つ用意していた。

桶に張った水から湯気が立ち上っている。

どこかで水を焚いたのだろう。

彼らは俯き、床を見ていた。

片膝をついて、何かを待っている。

「衣服をお脱ぎくだされ」

あ、そうか。たくさんの人がいて、いろいろ準備をしているので、私自身がすることを忘れていた。

「うむ。分かった。待っておれ」

私は帯に手をかけ、スルスルスルと着物を脱いだ。

脱いだ衣服は、女官が素早い動きで回収した。

男の召使たちは全員後ろを向いていた。

裸で湯船につかる。

なみなみと湯船に張られた湯が気持ちよい。

一人の召使が後ろを向き、片手だけを前に差し出した。

「それをお使いくださいませ」

「何じゃ、これは」

「香料にございます。皇貴妃のお好みの香りと聞いております」

私はそれを受け取り、粉状のそれを浴槽に入れてみた。

手でもって湯をかき混ぜた。

すぐに芳香が漂った。

たしかに、いい香りである。

ジャスミンのような、強い花の香りに近い。

ここに転移する前の、梅皇貴妃が好んだのか。

それなら、間違いなかろう。

これはいい。

いい香りのする湯は心と体をさらにほぐした。

ひところ、現世ではやったバスクリンやバブを思い出した。

当時、夫に先に入浴させ、夫の出た後の浴槽に入浴剤を入れた。

よい香りを独り占めにするのが、ささやかな私の楽しみだった。

今は、それ以上の快楽を味わっている。

湯とかぐわしい香りの作用で、肌がとろけるようだ。

片手で湯をすくい、腕に流しかけた。

しばらく何も考えず、のんびり過ごした。

心までとろけ、満足した。

「お湯加減、いかがですか」

「も少し、温かくてもよいぞ」

「わかり申した」

家来は桶に張った湯を、浴槽の端から慎重に注ぎ入れた。

さずがに、浴槽内の湯をかき混ぜるまでのことは家来にできない。

足された湯をゆっくりかき混ぜ、温度が均一になるようにした。

「これでいかがでしょうか」

「ちょうどいいわ」

しばらくは、時のたつのを忘れた。

外は見えないけれど、広い空間に私とお付きの者だけ。

なかなか気持ちのいいもんだ。

こんな入浴ができるのなら、毎日したかった。

しかも、昼間から一人で湯船を独占して、じつに優雅な時間である。

と思っていたら、そうも行かなくなった。

だれかが来た気配がした。

だれか、他の高貴な人。

その人は人払いをした。

別の召使がかしずく様子が、風呂の湯気に透けて見えた。

その高貴な人が、これから入浴するのか。私の後に。

そんな風に思っていたら、新たな展開に入った。

白い肌を見せて、高貴とおぼしき人が湯船に近づき、私に声をかけた。

「梅皇貴妃、入りますよ」

「は、はい」

いい香りがしたかと思うと、石の浴槽に小波が立った。

高貴な夫人が私の隣で湯に浸かった。

ちょうど向かい合う形で、二人は同時に入浴をした。

「皇貴妃ですか」

私は訊ねた。相手の身分が分からない。

とりあえず、同じ身分で呼んでやれ、と。

「いいえ。梅皇貴妃。お忘れになられては困ります。私は皇后ですよ」

「皇后陛下!」

驚いて開いた口を手で隠した。

王宮の婦人ではいちばん偉い人だろう。

その人が途中から入浴し、私に声をかけたのだ。

とにかく、驚いた。と同時に、恐れ入った。

でも、私だって皇貴妃の身分。おそらく二番目くらいだろう。

もう少し、情報がほしかった。

「陛下はどうされてますか」

「皇帝のことか。皇帝は昼寝をしておられる」

皇后は私にそう説明した。

やはり、皇帝もこの広い屋敷におられ、まだ私と対面してないのだ。

新しい情報と出会いがあり、この入浴も意味があった。

「では、皇后。私はお先に」

おもむろに浴槽から出た。

出るときに、皇后の背中を見た。

皇后は背中も綺麗で、スベスベした肌つやをしていた。

タオルはどこだろうと思う前に、ひんやりした石の床に敷いた布の上にきれいなタオルが置かれてあった。

薄い着物を着た二人の女官が現れ、タオルを手にして私の体を二人がかりで拭いてくれた。

他人に拭かれるなんて、子どもの頃以来の贅沢だ。

ぬふふふ。口から小さな声が漏れ出る。

女官は後ろを向いたままの召使から衣服を受け取り、裸の私に白い下着と橙色の着物を着せた。

着物を着て、その部屋を出るとき、召使が両膝をついて申し出た。

「今日の着物の選定は、私めがいたしました」

召使の一人が大きな声を発した。

さきほどの、背恰好が夫に似た召使である。

鼻の下に、立派な口ひげをたくわえている。黒くて長い口ひげを生やしていた。

橙色の着物はどこで手に入れた、と口から出かかり、やめた。

私は思い直して、いちおう褒めてみた。

「さようか。まずまずじゃな。よかろう」

私の褒め言葉にその召使は頭を下げ、その頭と同じ高さまで両腕を組んで掲げた。

「ははー。ありがたきお言葉」

ここまで敬意を示されると、くすぐったい。

扱いとしては、皇帝に等しい。あるいは、皇后と同程度なのかもしれない。

そう言えば、皇帝にまだお目にかかれてない。

「まあ、そのうち会えるだろう」

心の中で思った。

橙色の着物を着て、長い着物の裾を引きずるようにして廊下を移動した。

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